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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)486号 判決

主文

被告人Tを懲役一年および罰金一、〇〇〇万円に、

被告会社H商事株式会社を罰金四〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人Tに対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

被告人Tにおいて右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人Tは、東京都葛飾区〈中略〉において「H商事」の屋号で建設機械の賃貸業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、賃貸収入の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和四八年分の実際総所得金額が六八、四一四、九二六円(別表(三)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、昭和四九年三月七日〈略〉所轄税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が九、六五〇、〇〇〇円でこれに対する所得税額が二、七一〇、二〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額三八、九八九、八〇〇円(別表(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額三六、二七九、六〇〇円を免れ 第二、被告会社H商事株式会社は、同都葛飾区〈中略〉に本店を置き、建設機械の賃貸業を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社、被告人Tは、右会社の取締役であつて同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人Tは、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、賃貸収入の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和四九年三月一一日から同五〇年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、四〇〇八四、一三六円(別表(四)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同年四月三〇日前記〈略〉税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、八〇一、九三五円の欠損で、これに対する法人税額は零である旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一五、三一三、六〇〇円(別表(五)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(簿外交際費についての弁護人の主張に対する判断)〈省略〉

(建設機械の使用料についての弁護人の主張に対する判断)〈省略〉

(被告会社の設立登記月日前にかかる所得の帰属についての弁護人の主張に対する判断)

一検察官は、被告会社の設立登記月日は昭和四九年三月一一日であるが、被告会社は設立登記前である三月一日から事実上営業を開始しており、被告人も右期間内の損益は被告会社に帰属するものと判断していたものであるから、同月一日から同月一〇日までにかかる所得は被告会社に帰属する旨主張する。

この点につき弁護人は、被告会社の設立登記の日をもつて個人と法人の区切りとすべきであり、法人設立登記日前の一〇日分にかかる所得については実額で算出することが不可能であるから日割計算で算出するのが相当である旨主張するので、これにつき当裁判所の判断を示すこととする。

二被告会社の登記簿謄本によれば、被告会社は昭和四九年三月一一日に設立登記されたことが認められる。しかして、被告会社が右設立登記以前に事実上会社として営業していたかどうかの点については、被告会社備付の「元帳」、「会計帳簿」、「所得税源泉徴収簿」「オペ給料支払帳」等によれば、三月分より会社の取引として記載されていること、「個人事業の廃業届出書」によれば一月三一日を以て個人企業を廃止した旨の届出が所轄税務署長になされていること、被告人の昭和四九年分所得税確定申告書によれば、事業所得を除いた所得が申告されていることが認められ、被告人の検察官に対する供述によれば、「昭和四九年一月、二月は会社の準備期間のようなものであり、三月からは完全に会社になつているつもりでした。収入や支出の関係についても三月一日から会社ということでやつていたと思う」と述べていることも認められるので、これらの点からみれば、一応は検察官の主張にそうかの如き事実の存在も窺われるが、しかしながら右事実のみを以て直ちに被告会社が、法人税法上、事業年度を三月一日から翌年二月末日迄として営業活動をしていたものと断定することは困難であるといわなければならない。以下その理由を開陳することとする。

三そもそも法人税法は、当該法人の各事業年度における所得に対し租税の負担を求めるものとして、申告その他の手続上でも「事業年度」がその基礎となつているところである。

しかして法人税法上「事業年度」とは、営業年度その他これに準ずる期間で、法令又は法人の定款、寄付行為、規則若しくは規約に定めるものをいい、法令又は定款等に営業年度等の定めがない場合には、設立の日若しくは収益事業を開始した日から一定期間内に所轄税務署に届け出、または税務署長が指定する日等を規定している(法人税法一三条)。従つて、法人税法としては、まず、法令または法人の定款等において営業年度等の定めがある場合には、これをそのまま税法における事業年度として受け入れることが前提とされているものとみることができる。

ところで、法人が設立登記以前に事業上営業を開始していて、その登記以前に生じた損益が実際にも当該法人に帰属せしめられている事実の存するときは、その設立登記の日に捉われずに、その法人の第一期の事業年度の損益に算入せしめることも、税法上の実質所得者課税の原則により許容されるものと解されるが、しかしながら、当該法人の設立以前に個人において長年にわたり同一営業を行つていて、専ら税対策の理由から個人営業を会社組織に改めたような、いわゆる法人成りの場合で、両者の事業規模に大した変化がみられず、対外取引も区別されていず、資産もすべて個人とは明確に分離されているとはいえない等個人と法人の区別が外部から確実に識別し得ないのみならず、個人から法人に移行した時点を示す帳簿書類の記載が客観的に明白であると必ずしもいい得ないような事情等がある場合には、個人所得税と法人税につき両者に税負担の差異があることから、納税者の恣意を防ぎ、租税負担公平の原則の要請からしても、税法上、個人事業と法人事業とを明確に区別する必要がある。

それは、当該法人においてその存立の基盤をなす原始定款に「営業年度」、就中「最初の営業年度」を明規しているようなときには、特にそれによらないことが客観的に認められない限り、右原始定款の定めに拠ると解するのが妥当である。けだし、その様に解する方が法人制度、事業年度を定めた法の趣旨に合致するのみならず、かえつて、当事者の主観に拠ることは恣意に流れる虞れがあつて妥当ではなく、寧ろ原始定款の記載によることは、公平負担の原則の基礎である明確画一性に優れており、実質所得者課税の原則といつても租税公平負担の原則の一適用の場合であるからである。

四これを本件についてみるに、収税官吏の被告人Tに対する各質問てん末書、被告人の検察官に対する各供述調書によれば、被告人は個人として昭和三七年ごろから被告会社と同一の場所で同一の営業である建設機械賃貸業を被告会社名と類似した「H商事」の屋号で始めたこと、昭和四八年に至り所轄税務署から調査をうけて修正申告をなし、昭和四九年から租税対策上会社組織の必要を決心したこと、代表者に被告人の配偶者のBを選任したが単に名義上に過ぎず、実際は被告人において個人時代と同様に直接仕事の監督をしていたことの各事実を認めることができる。また、被告人は、会社組織にしたとしても個人営業をそのまま会社にしただけであつて、仕事のやり方なども従来と変ることはなかつたと供述し、資産関係について、全部法人に引き継ぐと税務署から目をつけられるおそれがあるから所轄税務署へ提出した申告書には機械や車輛運搬具の一部しか引き継がなかつたように申告したと供述していることが認められる。

被告会社代表者Bも、当公判廷において会社の事実上の財産がいくらあるか、借金がいくらあるかを個人から法人になつたときは計算していなかつたと供述し被告人も会社設立時個人財産を会社へ引継いだ際の債務が幾らか調査していないと供述している。証人Iは現に被告会社の経理に関与しているが、被告人は法人格と個人の人格の区別がはつきり分つていないのでないかと思うと供述している。

また、被告人は主観的には、三月一日ではなく、一月から個人で仕事をしていなかつたと考えていたから個人の商売の申告はしなくてよいと思つていたと述べていながら、個人事業の廃業等届出書が所轄税務署長に対し提出されたのは、同届出書の受付印によれば、昭和四九年五月二五日付であることが認められる。

次に、被告会社の備付帳簿である「元帳」を仔細に点検すると、たとえば現金勘定には「前期より繰越」として3/31三月中借方、差引残高欄に各一、七〇〇、〇〇〇円の金額が記載されており、その外、機械装置につき二五〇、〇〇〇円、車輛運搬具につき二、九一二、八〇六円が、本来は新設法人であるから前期からの繰越はあり得ないのに現金勘定と同様に「前期より繰越」と摘要欄に記載されて金額が記入されている事実を認めることができる。

「会計伝票(帳簿)」をみると、個人時代に使用した通信費であるべき二月中の電話料が三月八日の出金伝票で被告会社にかかるものとして支出されている事実も認められる。

更に、被告会社の原始定款には、会社設立前の準備活動に関連する商法上の現物出資、財産引受ないし事後設立等の定めも何等規定されてはいない。

以上の各事実を総合すれば、被告会社が昭和四九年三月一日から法人として事実上事業を行つていたと明白に認めるには到底困難であるといわなければならない。

ところで被告会社の原始定款には、会社の計算として「営業年度」につき「当会社の営業年度は毎年三月一日から翌年二月末日までの年一期とする」(第25条)と規定しながら、最初の営業年度に限つては、特に「当会社の第一期の営業年度は、当会社成立の日から昭和五〇年二月末日までとする」(第28条)と別個に規定している事実を認めることができる。

しかして被告会社の設立月日は登記簿謄本によれば昭和四九年三月一一日であることは既に認めたとおりである。

被告人、被告会社代表者Bはいずれも当公判廷において、右定款の最初の事業年度、法人成立の登記月日が何時であつたか知らなかつた旨供述し、他に被告会社において右原始定款の定める事業年度によらないことを明確に認める証拠もない。

そうだとすれば、租税法における公平負担の原則及びその派生原則である実質所得者課税の原則からすれば、被告会社設立登記までの所得は被告人個人に帰属させ、設立登記後の所得は被告会社に帰属させて両者の所得を振分けるべきものと解するのが相当である。

それは商法における資本充実の原則とは何ら関係はない。

なお検察官は、被告会社が昭和四九年三月一日からの営業取引を被告会社の取引として公表帳簿に記載したり、申告に際して昭和四九年三月一日からのものを含め申告したことは、被告会社が設立登記前の営業行為を追認するか、又は引継いだものと解釈できるし、設立中の会社に対する商法上の種々の制約は何らの影響を与えるものではないと主張する。

しかしながら、叙上認定のように、公表帳簿の記載は必ずしも被告人個人の事業と明確に区分して記帳していたとはいい得ないのみならず、また、備付帳簿によれば、三月中からの取引を以て被告会社の営業取引として扱うことは推認し得ても、これを以て三月一日から被告会社の取引と断定することはできないといわなければならないし、更に、私法上の追認によつてその効力を遡及せしめることは租税法の分野においては、公平負担、実質所得者課税の原則からは許されないと解すべきである。

なお、商法上の設立中の会社に対する制約は、税法上の実質主義の原則からは、その適用は消極に解すべきであることは叙上説示したとおりであるが、本件は、実質主義の見地から何人の所得として帰属せしめるのが税法上妥当かという視点から論じていることであつて商法上の効力の有無を論じているものではない。

かえつて、被告人の当公判廷における供述によれば、所轄税務署長においてすら、被告会社に対する行政上の課税更正処分につき、当初は昭和四九年三月一日からの分を法人所得として認定していたところ、その後にいたり、三月一日から同月一〇日までの分にかかる所得を除外し、被告会社設立後の所得のみに減額更正している事実を認めることができる。

以上諸般の事情を総合し、被告会社の昭和五〇年二月期の実際所得金額は、昭和四九年三月一一日から同五〇年二月二八日までの間に生じた益金から損金を控除し所得を算定することとした。

五そうすると、被告会社の昭和五〇年二月期の所得金額の算定にあたつては、公訴提起にかかる実際所得金額から昭和四九年三月一日より同月一〇日までの期間にかかる分については、被告人個人に帰属するものとして、これを控除する必要がある。

ところで、一般に個人の事業所得金額の計算にあたつては、収入金額(所得税法三六条)と必要経費(同法三七条)があると考えるのが通常であるから、従つて、右一〇日間にかかる分の所得を被告人個人の事業所得なりとして、これを被告会社の所得から控除するためには、被告会社に該るものとされた収入金額にあたる売上(益金)、および必要経費にあたる経費(損金)のうちから、被告人個人のものと認められる実額を控除する必要がある。

ところで、益金の一部を減額することは被告人の利益に認定することであるから差支えないが、これに反し検察官の主張した勘定科目である損金項目の一部又は全部を減額したり削除したりするような場合には、被告人に実質的に不利益であるから訴因変更の手続を要するのではなかろうかとする疑問もあろう。

しかしながら、被告人において、一般に検察官の主張する特定の勘定科目のみを争つている場合に、それ以外の、もし検察官の全然主張していない益金の具体的項目を裁判所が突如認定したり、検察官の主張する損金の具体的項目を突如削除したり減額したりして認定するようなことになれば、被告人側に対する不意打ちとなり、その防禦に実質的な不利益を与えることも十分ありうるので訴因変更の手続を要することも必要である。しかしながら、本件のように、一事業年度中の一定期間にかかる所得の帰属が争われる場合には、そもそもその所得を算出するためには、税法上は益金と損金の双方がその所得の構成要素をなしているのであるから(法人税法二二条)、当然に右益金と損金の具体的各項目を一括して考慮しなければならず、右の範囲内における益金と損金の増減が相互に直接関連する関係にあることになる。従つて、被告人、弁護人の主張自体において、本件のように所得の帰属を争う場合には、益金の具体的項目を減ずることの主張のみならず、損金の具体的な各項目の金額を削除され、または減額されても差支えないという趣旨を含むものと解すべきである。従つて、右一〇日間にかかる所得を算出すべき益金と損金の各項目全体が独立の争点を構成するものとされるので、もし、右益金から右損金を控除した結果、逆に当該事業年度の実際所得金額が増加するような場合を生ずるならば格別、そうでなければ、被告人に何ら実質的な不利益を与えることはあり得ないので、訴因変更の手続を要しないものと解するのが相当である。

ところで検察官が冒頭陳述によつて逋脱所得の内容を個々の勘定科目ごとに具体化したとき、その各項目は訴因をなすと解すべきであるが、審理の結果、裁判所がこれと異なる認定をするすべての場合に訴因変更手続を要するものではなく、本件所得の帰属を争う事案のように、一般に被告人の実質的防禦に影響のないことが明らかであり、被告人に何らの不利益を与えることのないことが明瞭である場合には訴因変更の手続を要しないと解すべきである。

弁護人も、当裁判所からの「被告会社につき、右期間の所得を控除することになれば、その期間に対応する損金の額も減算することになるが、この点についての弁護人の見解如何」との求釈明に対し「然るべく」と陳述し、また、本件において弁護人の主張する期間に立つとすれば、益金にあたる売上のみならず、損金の具体的項目として、給料手当、水道光熱費、通信費、交通費、消耗品費、燃料費、修理費、厚生費、広告費、オペ賄費、支払利息、支払手数料の各項目を減額することになるのでこの点につき主張があるかとの当裁判所の弁護人に対する求釈明に対しても異議がないと陳述しているところである。

なお、最高裁判所昭和四〇年一二月二四日第三小法廷決定、刑集第一九巻第九号八二七頁は、本件のように事業年度にかかる所得の帰属を争うような被告人の実質的防禦に何等不利益を生ずる虞れのないことが明らかな場合には訴因変更手続を要しないので、本件には該当しないといわねばならない。

六そこで裁判所として叙上説示したように、右期間の一〇日分につき、売上高(益金)については「売上調査書(法人分)」から、経費(損金)については「経費調査書」(付支払状況調査書)から、それぞれ被告人の取引にかかるものと認められる実額を抽出し、これらを控除することとした。

1  益金(売上高)

「売上高調査書」によれば、被告人が個人事業として昭和四九年三月一〇日迄になした取引であると明らかに認められるものは、七件合計金一、二七六、七〇〇円である。

ところで、被告会社の設立登記日である三月一一日以後三月末日迄の間に取引が行なわれたものは、七五件計金一三、一四二、一〇〇円であると認められるが、しかしこのなかには設立登記前の被告人の行なつた取引と推認されるものが相当程度混入されて繰越されていると考えられるものがある。けだし、前掲「売上調査書」によれば、得意先別売上をみると、毎月の売上高は請求年月日で分けているにも拘らず、各得意先の取引締切日が毎月二〇日〆翌末とか、二〇日〆翌々五日とか区々であることが認められるから、通常一般的に考えれば、右〆後の取引は翌月に繰越されていると考えられるからである。

そうすると、請求年月日で毎月の売上高を計上するときは、二月分ないし三月一〇日迄にかかる前事業主である被告人個人の取引が三月中に混入されてくるので、他人の売上にかかる取引を被告会社の逋脱所得算定に用いることは許されないから、これを控除する必要がある。しかしながら、右売上調査書には、これを明確に区別して記載されてはいないし、右証拠以外に本件全立証によるもこれを区別し得る資格もない。そこで、やむを得ず、合理的な方法を以て前事業主である被告人個人の取引にかかる分を控除することにした。

ところで、被告人は当公判廷において、被告会社の設立時である三月分について、特にそれ迄の月に比して増減したとする記憶がない旨供述しているので、それは、三月分のうち、争われる日数が一〇日までの分であるから、月の1/3に当たる日数と、その月の日数(三一日)との割合を算出したうえで、設立登記日である三月一一日から三月末日までの実額である売上の合計額に乗じて、その額を減ずれば、少なくとも三月分のうち、一〇日までに当たる分は除外してあると事実上推認できる。従つて、それによつて算出すると四、二三九、三八六円となる。

そこで叙上認定の三月一〇日までに生じたことが明白な一、二七六、七〇〇円と、右三月一一日以後三一日までのうち目数按分した分四、二三九、三八六円の合計額五、五一六、〇八六円は被告人個人にかかる売上分と認めることができる。右のように計算する方が、単純に三月分を日割計算するよりも合理的であるといわねばならない。

売上

① 49.3.10までの請求にかかるもの

1,276,700円

② 49.3.11より49.3.31までの請求にかかるもの 13,142,100円

③ 1,276,700円+4,239,386円

=5,516,086円

以上により、右金額を被告会社の売上高(益金)から控除すると、当期における被告会社の修正損益計算書記載の売上高当期増減金額は四六、七四四、一七七円となり、被告会社の実際売上高(差引修正金額)は一五六、四六九、九二四円となる。

2  損金(経費)

「経費調査書」(付支払状況調査書)によれば、被告人の個人事業にかかるものとして昭和四九年三月一〇日までに支出されたものと明らかに認められるものは、給料手当一七〇、〇〇〇円、水道光熱費一、八四七円、通信費一、七一七円、交通費四六〇円、消耗品費三、四五〇円、燃料費二、八一五円、修理費二九七、五二五円、厚生費一、〇〇〇円、広告費一三四、四〇〇円、オペ賄費五一、〇九一円(Ⅰにつき二〇、五四一円Ⅱにつき三〇、五五〇円)、支払利息一六〇、三三八円、支払手数料一二〇円の合計八二四、七六三円である。

3  控除所得金額

前記売上(益金)から経費(損金)合計八二四、七六三円を控除すると差引所得金額は四、六九一、三二三円となる。右金額は被告人個人にかかる所得金額と認められるので、これを被告会社の実際金額とされた額から控除することになる。

4  被告会社の実際所得金額、税額

右計算したところによれば、被告会社の当該事業年度における実際所得金額は四〇、〇八四、一三六円となり、その税額は一五、三一三、六〇〇円となる。

従つて、右金額を超える部分は本件逋脱額から控除することとした。

(法令の適用)

被告人につき

判示第一の所為は所得税法二三八条(所定刑中懲役刑と罰金刑を併科)。判示第二の所為は法人税法一五九条(所定刑中懲役刑と罰金刑を併科)。刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)、罰金刑につき四八条二項。

罰金を完納することができないときは刑法一八条により労役場留置。右懲役刑につき、情状により刑法二五条一項を適用し刑の執行を猶予する。

被告会社につき

判示第二の所為は法人税法一五九条、一六四条一項。よつて、主文のとおり判決する。

(松澤智)

別表(一)〜(5)〈省略〉

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